通信販売の老舗企業として知られるベルーナが、今やホテル業界でもその存在感を強めているのをご存じでしょうか。2025年3月、札幌駅北口エリアに「札幌ホテル by グランベル」をオープン。地上26階建て、全605室という札幌最大級の規模を誇るこの都市型ホテルは、単なる宿泊施設ではなく、ベルーナが築いてきた“新たな柱”とも言える存在です。
カタログ通販という斜陽産業と見られがちな分野から脱却し、観光・インバウンド需要を取り込んで大きな成果を上げているベルーナ。異業種からの参入ながらも、ホテル事業を260億円規模にまで成長させたその裏には、綿密な戦略とビジネスの本質を見極める力がありました。
本記事では、最新開業の「札幌ホテル by グランベル」に注目しながら、ベルーナのホテル事業拡大の背景と成功要因を掘り下げていきます。
ベルーナとはどんな会社か?
ベルーナは、埼玉県上尾市に本社を構える総合通販企業として1977年に創業されました。もともとはアパレルや生活雑貨を中心としたカタログ通販で多くのファンを獲得し、主に中高年層をターゲットにした“安くて良いもの”の提供を強みとしてきました。

しかし、インターネット通販の普及やライフスタイルの変化によって、紙媒体中心のカタログ通販は次第に成長の鈍化を迎えることになります。そこでベルーナは、事業の多角化を推進。健康食品や化粧品販売、ワインの直販などに加え、2006年には本格的にホテル業に参入しました。
2024年3月期の連結売上高は約2080億円。その中で注目すべきは、ホテル事業だけで262億円もの売上を記録している点です。これは全体の1割以上を占めており、斜陽化する通販事業をカバーする“第二の柱”にまで成長しています。
ベルーナは単なる通販会社ではなく、今や「リテール×観光×不動産」を融合した総合ライフスタイル企業として進化しつつあります。
ホテル事業への参入と展開戦略
ベルーナがホテル事業に参入したのは2006年。もともとは通販を主力とする企業でしたが、時代の変化とともに新たな成長分野としてホテル業を選びました。最初は数軒の施設からスタートし、現在では国内外あわせて26の宿泊施設を展開するまでに成長しています。
同社のホテルは、大きく「都市型ホテル」と「リゾート型ホテル」の2つに分類できます。都市型では、東京・大阪・京都・札幌などの主要都市に「グランベルホテル」というブランド名で展開。大浴場やレストラン、デザイナーズルームなどを備え、ビジネスや観光の拠点として利用しやすい設備を整えています。
一方、リゾート型ホテルでは北海道の定山渓や洞爺湖、スリランカのゴール、モルディブなど、自然や景観を活かした滞在体験を提供しています。客室には露天風呂が付いていることもあり、非日常的な時間を過ごすことができます。
ホテルの展開においては、新築だけでなく既存施設の買収とリノベーションも積極的に行っており、設えやサービス内容を見直して「気持ちのいい場所」へと再生させています。
また、もともと通販業で培ってきたノウハウを活かし、顧客ニーズの分析や予約の仕組みなど、運営体制にも独自の工夫が加えられています。特に現場の声やお客様の反応を重視する姿勢は、ベルーナのホテル経営の大きな特徴といえるでしょう。

小樽グランベルホテル
なぜ札幌に“最大級”ホテルを開業したのか
2025年3月に開業した「札幌ホテル by グランベル」は、地上26階・全605室という札幌市内でも最大級の規模を誇るホテルです。この大型プロジェクトに、なぜベルーナは札幌という地を選んだのでしょうか。
その背景には、北海道に対するベルーナの長年の関心と実績があります。同社は1970年代から札幌・釧路・北見に事務所を構えており、地域に深く関わってきました。社長自身が現地を訪れる中で、北海道の食や自然、観光資源のポテンシャルに魅力を感じ、宿泊事業への展開を構想していったといいます。
北海道内ではすでに、定山渓・洞爺湖・阿寒湖などにリゾートホテルを展開しており、今回の札幌ホテルはそれに続く“都市型ホテル”として位置づけられています。JR札幌駅北口から徒歩7分という立地は、新幹線の開業が控えるエリアでもあり、今後の国内外からの人の流れを見据えた戦略的な場所です。
また、北海道は近年インバウンド需要が急速に伸びている地域でもあります。特に札幌は観光・ビジネスの両方の需要が見込める都市であり、大型ホテルのニーズが高まっていました。25階にはスパ・サウナ、26階には札幌市街を一望できるレストランなどを備えた「札幌ホテル by グランベル」は、そうした多様なニーズに応える“フルスペック”の施設として設計されています。
北海道の自然と都市機能が交差する札幌という地で、ベルーナは「最大級」というスケールの中に、これまで培ってきたホスピタリティと現代的な快適さを融合させたホテルを作り上げたのです。

札幌ホテル by グランベル
ベルーナ式ホテル経営の強みと工夫
ベルーナがホテル事業で成功を収めている背景には、独自の運営哲学と細やかな現場主義に基づいた「ベルーナ式経営」の工夫があります。
まず特筆すべきは、通販事業で培った“顧客目線”の徹底です。ベルーナはもともとカタログ通販で顧客の声を敏感に汲み取る文化を育んできました。ホテル事業においてもそれは変わらず、「気持ちよく過ごせる空間とは何か」を常に現場で問い直し、接客から施設のデザインに至るまで改良を重ねています。
また、既存のホテルや旅館を買収して再生する際は、積極的なリノベーション投資を行い、老朽化した部分を一新。「気持ちのよい空間づくり」をテーマに、ロビーやレストラン、客室、さらにはスパやサウナに至るまで、細部にこだわった設えを導入しています。
さらに、社員やスタッフのモチベーションを高める「主役意識」もベルーナの強みです。月に1〜2回の提案会議では、新入社員も含め、現場の気づきを提案として出せる制度が整っており、従業員一人ひとりが“サービスの担い手”としての誇りを持てる仕組みが用意されています。
さらに、元通販事業のECチームのノウハウも、ホテルのマーケティングに活かされています。予約管理、集客、販促などにおいて、リアル店舗とWEB予約を連携させた柔軟なチャネル戦略を展開。ブッキング・ドットコムやアゴダといった海外OTAとも連携し、インバウンド需要にも対応しています。
こうした“お客様満足度” “従業員満足度” “会社としての収益性”の三つの満足をバランスよく高める取り組みが、ベルーナのホテル事業を支える大きな柱となっているのです。

ベルーナのホテル拠点、北海道だけで7か所
北海道・札幌におけるホテル展開の狙いと今後
ベルーナが北海道、特に札幌にホテル展開を強めている背景には、同地域に対する強い確信と継続的な投資姿勢があります。
もともとベルーナは、1970年代から札幌・釧路・北見などに営業拠点を構えており、北海道とのつながりは深いものでした。社長自身が何度も足を運ぶ中で、北海道の食文化や観光資源、大自然の魅力を体感し、「必ず人気が高まる」との手応えを感じていたと言います。
実際、2020年代以降の北海道は、国内外の観光客から注目が集まり、特に札幌はその中心地となっています。札幌駅北口エリアでは、将来的に新幹線の駅設置が予定されており、交通ハブとしての機能が一層強まる見込みです。
そのタイミングを見据えて誕生したのが「札幌ホテル by グランベル」です。定員1924人という大規模施設であるだけでなく、最上階のレストランや高層階の露天風呂付きスパなど、上質な滞在体験も提供しています。
また、インバウンド需要が右肩上がりに増加している今、札幌は訪日外国人の宿泊地としても高いポテンシャルを持ちます。ベルーナはその需要を的確に取り込みつつ、北海道らしさを感じられるホテルづくりを通して、長期的な支持を得ようとしています。
今後は札幌に加えて、小樽や定山渓などでもホテル展開が予定されており、北海道全体をひとつのブランドネットワークとして育てていく構想があるようです。自然と都市、観光と日常が交差する北海道の特性を活かし、ベルーナはさらに強固なホテル運営体制を築いていこうとしています。
ベルーナに学ぶ異業種参入の成功ポイント
カタログ通販の老舗として知られるベルーナが、ホテル事業でここまでの成功を収めたことは、異業種からの参入モデルとして非常に示唆に富んでいます。その成功の背景には、いくつかの明確な戦略と哲学があります。
1. 顧客目線を徹底したサービス設計
通販業で長年培った「お客様の声を聞く」姿勢は、ホテル運営にもそのまま活かされています。たとえば、客室の仕様や朝食の内容、サービス導線など、すべてにおいて「利用者が快適に感じるかどうか」を重視。顧客目線で細やかな改善を繰り返すことで、リピーターを着実に増やしています。
2. 従業員の「主役意識」を育む職場文化
スタッフ一人ひとりが自ら考え、提案し、行動できる仕組みを整えることで、現場の活力を生み出しています。定期的な提案会議や改善ミーティングは、現場主導の運営を可能にし、職場の活気と柔軟性につながっています。
3. 既存資源の活用と大胆な投資判断
ホテル事業への進出にあたり、ベルーナは既存の施設をリノベーションして活用する手法を多用。無理な新築ではなく、必要に応じた再設計で魅力ある施設へと変化させています。さらに、リゾートや都市型といった立地や用途に応じたブランディングの柔軟さも、異業種ならではの発想が活かされた例です。
4. データ活用とECのノウハウ
通販で磨いたデジタルマーケティングのスキルを、ホテルの集客や稼働率の向上に転用。OTAとの連携や直販チャネルの最適化、自社ECチームによる分析など、リアルとデジタルを組み合わせたハイブリッドな戦略が成果を上げています。
5. 「商売の本質は変わらない」という信念
社長の言葉にもあるように、「事業が違っても商売の基本は同じ」。ベルーナは、ホテルでも通販でも、「お客様に喜んでもらい、従業員がやりがいを持ち、会社としてしっかり利益を出す」という原則を徹底しています。その一貫した姿勢こそが、異業種でも成果を出すための土台となっているのです。
今後の展望と注目ポイント
ベルーナのホテル事業は、すでに全国26施設を展開するまでに成長しましたが、今後の展望はさらに広がりを見せています。
まず注目されるのは、北海道エリアでのさらなる拡大です。2025年には札幌に続いて小樽での新ホテル開業が予定されており、定山渓ビューホテルではエグゼクティブフロアへの大規模リニューアルも計画中。これにより、道内でのプレゼンスはさらに強化される見通しです。
また、都市型ホテルの展開も継続的に進められており、東京をはじめとしたインバウンド需要の高いエリアでの出店計画が動いています。さらに、スリランカやロサンゼルスなど、海外市場への新規参入も視野に入れており、グローバルなホテルブランドとしての地位確立を目指しています。
一方で、シーズンによる収益変動など課題もあるものの、ベルーナは自社で持つマーケティング力と従業員主体の運営文化を武器に、柔軟な対応を行っています。
今後は、ホテル単体での利益追求だけでなく、**地域や観光資源との連携を深めた「滞在価値の創出」**にも注力していくと見られ、より多角的な事業展開が期待されます。
ベルーナが今後どのようなホテルをどこに展開し、どのような宿泊体験を提供していくのか――。その成長から目が離せません。

まとめ:ベルーナの異業種成功に学ぶホテル業界の新たな可能性
ベルーナは、かつてカタログ通販で知られた企業から、今や国内外にホテルを展開する成長企業へと変貌を遂げました。その背景には、「顧客目線」「従業員を大切にする文化」「継続的な改善と投資」「マーケティング力の活用」といった普遍的なビジネスの原則を愚直に貫いてきた姿勢があります。
特に注目すべきは、北海道・札幌という地に大規模ホテルを開業するという大胆な戦略です。地域資源を的確に見極め、地元に根ざした魅力を活かしながら、インバウンドやビジネス需要まで視野に入れた展開は、今後のホテル業界にも新しい視座を提供してくれるでしょう。
ベルーナの事例は、「業種が違っても、ビジネスの本質は同じ」という言葉を体現しています。今後のさらなる展開にも、大いに注目が集まります。
