空調の枠を超えた“技術の総合商社”高砂熱学工業
2025年、カンブリア宮殿で取り上げられる企業の中でも、特に注目を集めているのが高砂熱学工業です。一見、あまり馴染みのない名前かもしれませんが、実は私たちの生活の“空気”を支える、日本トップクラスの空調エンジニアリング企業です。
同社が手がけた施設には、国立競技場、麻布台ヒルズ、東急歌舞伎町タワーなど、近年話題となった大型建築物がずらりと並びます。これらに共通するのは、快適性や省エネ性だけでなく、繊細な空気管理が求められるという点です。
さらに近年では、半導体工場のようなナノレベルでの空気清浄度が必要な現場や、なんと月面での水素・酸素生成という宇宙関連プロジェクトにも関わっているというから驚きです。
空調=エアコンというイメージを超え、建物の“心臓部”とも言える技術で社会を支える高砂熱学工業。その革新的な取り組みと企業の成り立ち、そして未来への挑戦を紐解いていきます。
高砂熱学工業とは?業界トップを誇る空調エンジニアリング企業
高砂熱学工業株式会社(Takasago Thermal Engineering Co., Ltd.)は、東京都新宿区に本社を構える空調設備のプロフェッショナル企業です。創業以来、空調に関する設計・施工・保守を中心に事業を展開し、現在では14年連続で空調設備業界のトップシェアを誇っています。
売上高は3600億円超(2023年度)に達し、JPX日経インデックス400にも選ばれる安定企業。単なる施工会社ではなく、最先端の空調技術を自社開発し、特許出願数も業界最多を誇るなど、その技術力は国内外で高く評価されています。
特に注目すべきは、単なる温度・湿度の管理だけでなく、空気の清浄度や気流制御にまで対応した高度な空調システムを提供している点です。これにより、オフィスビルや病院、商業施設だけでなく、半導体工場のクリーンルームや、宇宙開発向けの特殊装置など、高度な環境制御が必要な現場でも欠かせない存在となっています。
高砂熱学工業は、空調という枠を超えて、“空間を創る技術”で社会を支えるエンジニアリング企業として、その存在感を年々高めています。
国立競技場や半導体工場も!高砂熱学のスゴ技空調
高砂熱学工業が誇る空調技術は、まさに“空間の精密エンジニアリング”。単なる冷暖房を超えた、環境そのものをデザインする高度なシステムが、数々の大型プロジェクトで活用されています。

国立競技場の「快適性」を支える
たとえば、東京オリンピックの会場となった国立競技場。8万人規模の観客を想定した巨大施設において、観客の快適性を保ちつつ、環境負荷を最小限に抑える空調システムが求められました。
高砂熱学は、自然換気と機械換気を組み合わせたハイブリッド空調を導入。スタンドの温度ムラを抑えつつ、省エネ性も高い設計を実現し、大規模施設における空調の理想形として注目を集めました。
クリーンさが命の半導体工場にも導入
また、同社の技術は半導体工場のクリーンルームにも採用されています。半導体製造では、わずかなホコリや温度変化も致命的な不良につながるため、極めて高精度な空調制御が不可欠です。
高砂熱学は、粒子の浮遊を抑える気流設計や温度・湿度をミリ単位で管理する空調制御を通じて、製造現場の「無菌・無塵」環境を実現。まさに“見えない空気”を操る職人技で、先端産業を支えています。
環境・快適性・経済性の三立を実現
高砂熱学の空調技術が評価される理由は、快適性・環境性能・経済性の三立を実現しているからです。ユーザーのニーズや空間の特性に応じて、最適なシステムをオーダーメイドで設計・施工する柔軟性も大きな強みです。
病院や商業施設、オフィスビルはもちろん、最新の複合施設や文化施設に至るまで、あらゆる空間の“空気の質”をデザインしてきた実績は、まさに「空調の総合エンジニアリング企業」としての証です。
月面まで見据える!?水素・宇宙開発への挑戦
空調設備のリーディングカンパニーとして知られる高砂熱学工業は、地上の快適な空間づくりにとどまらず、なんと「宇宙空間」での利用を見据えた技術開発にも取り組んでいます。その中心にあるのが、月面での水電解による水素・酸素生成装置の開発です。

月で“空気”をつくる技術
高砂熱学が開発したのは、水を電気分解して水素と酸素を生成する小型装置。これにより、月面に存在する水資源を活用して、燃料や呼吸用の酸素を作ることが可能になります。
装置は片手で持てるほどのコンパクトサイズながら、地上と同等レベルの性能を実現。月面の重力や過酷な振動環境に対応するために、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や民間宇宙企業とも連携し、宇宙対応の厳しい基準をクリアして開発されました。
世界初の月面水電解実証へ
この装置は、2024年冬に打ち上げられたispaceの月着陸船に搭載され、世界で初めて月面での水電解の実証実験を行う計画です。実験では、月面の水ではなく地球から持ち込んだ超純水を用いて検証を行い、その性能と耐久性をテストします。
この技術は、将来的に宇宙ステーションや月面基地のライフラインの一部として活用されることが期待されており、まさに人類の宇宙進出を支える「インフラの一部」となる可能性を秘めています。
なぜ空調会社が宇宙へ?
一見、空調会社と宇宙開発は無関係に見えますが、空気・温度・水分といった“環境を制御する”技術という点では深くつながっています。高砂熱学が長年培ってきた微細な環境制御技術が、宇宙という極限環境でも応用可能であることが今回の挑戦で証明されようとしています。
小島和人社長は「月面での人類の長期滞在につながる第一歩になってほしい」と語り、日本の技術力の高さを世界に示すことに強い意欲を見せています。
技術力を支える“人”と“組織”の力
高砂熱学工業の驚異的な技術力の裏には、単なる設備や機械だけでなく、それを支える“人”と“組織”の力があります。同社が長年にわたって空調業界のトップに立ち続けてこられたのは、優秀な人材の育成と、柔軟かつ挑戦的な組織文化に支えられてきたからに他なりません。
専門性を極めるプロフェッショナル集団
高砂熱学では、空調・衛生工学を中心とした高度な専門知識を持つ技術者が多数在籍。学会での技術賞・論文賞の受賞実績や、有効特許数で業界トップを誇るのも、こうした人材が現場で常に課題解決に向き合っているからです。
さらに、半導体工場のクリーンルームから国立競技場の快適な観客環境、さらには宇宙を見据えた開発まで、多様なフィールドで活躍できる**“応用力”と“現場力”の高さ**が、同社の技術の深さを裏付けています。
「人が主役」の社風と育成方針
同社が大切にしているのは、**「人が主役の経営」**という考え方。社員一人ひとりが現場で考え、動き、提案し、改善を繰り返していく文化が根付いています。これにより、急速に変化する社会やニーズに対しても柔軟に対応し、新たな価値を生み出す力が育まれています。
また、新入社員への研修や技術者のスキルアップのためのプログラムも充実しており、継続的な学びの場を用意することで、技術継承と進化を両立しています。
チーム力で挑む最先端プロジェクト
月面での水電解装置のような先進的なプロジェクトも、技術部門だけでなく営業、企画、外部パートナーとの連携によって推進されています。部門を越えた連携と、情報共有のスピード感が高砂熱学の強みのひとつです。
“空調”というインフラを支えるプロフェッショナル集団でありながら、宇宙開発という未知の分野にも果敢に挑む姿勢は、「技術で未来を変える」企業文化を体現しているといえるでしょう。
高砂熱学工業のこれからと注目ポイント
高砂熱学工業は、これまでの空調設備業界での圧倒的な実績に甘んじることなく、次なるステージに向けた挑戦を続けています。その動向には、日本のインフラ技術の未来が垣間見えるとも言えるでしょう。

宇宙・水素という新たなフロンティア
今、同社が力を入れているのが「水素エネルギーの利活用」と「宇宙関連ビジネス」です。とくに注目されるのが、2024年冬に月面へ向けて打ち上げ予定の水電解装置の開発プロジェクト。月での水素・酸素の生成実験は世界初となる可能性があり、高砂熱学の技術力がグローバルに示される一大チャレンジです。
これは単なるPRではなく、今後の月面基地建設や持続可能な宇宙滞在において極めて重要な技術であり、日本の宇宙開発戦略における民間企業の存在感を高めるものとなるでしょう。
国内インフラを支える要としての役割強化
地上でも、国立競技場や半導体工場など、社会インフラの中核を担う施設の空調を手がけている実績は、今後ますます価値を増していきます。近年の気候変動やエネルギー問題、パンデミックを通じて、空調の「快適性」だけでなく「安全性」「省エネ性」も求められており、同社の持つ環境制御技術の高度化が鍵となります。
また、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)や再エネ利用といった脱炭素社会に向けた建築設備のニーズにも対応できる技術力と実績は、国内外からの注目を集める要因になるでしょう。
今後の注目ポイント
- 月面実証プロジェクトの成果と波及効果
- 空調から派生する新技術や新事業領域への進出
- 民間・公共の建築分野でのさらなる展開
- 脱炭素や健康経営への取り組み強化
- 人材育成と技術継承の取り組みの深化
これからの高砂熱学工業は、「空調」という枠を超えて、インフラ・エネルギー・宇宙という広範な分野にまたがる未来志向の企業として進化を続けることでしょう。
まとめ
高砂熱学工業は、空調設備業界において長年にわたってトップを走り続けてきた企業です。国立競技場や麻布台ヒルズ、最先端の半導体工場など、誰もが知る建築物の空調を支え、日本の快適で安全な社会インフラを陰から支えています。
その一方で、月面での水素生成を目指す水電解装置の開発や、水素エネルギーへの取り組みなど、地上から宇宙まで視野に入れた先進的な挑戦を続けている点にも注目です。これらの動きは、単なる空調会社という枠を超えた、未来型のエンジニアリング企業としての存在感を強く打ち出しています。
今後も日本の技術力をけん引する存在として、高砂熱学工業の動向から目が離せません。空調にとどまらないその活躍は、私たちの暮らしや未来の社会をより豊かに、快適に、持続可能にしてくれるでしょう。